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yamachan blog  (社会派うどん人の日常)

コシのつよいうどんのような、歯ごたえのある記事をお届けします。

【HRmics】日本型雇用に対する処方箋 ~法規制+人事マネジメント~

昨日、リクルート主催のHRmics #15に行ってきた。

これは私の師匠(と自分が勝手に呼んでいる)海老原嗣生さんが、人事界隈の著名人を呼んで本質的なトークをするという講演会。

 

 今回のテーマは、非正規雇用の決着点!

 

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今回のゲストは

濱口桂一郎:労働事情を語らせたら右に出る者はいない労働官僚・研究者

      hamachanブログ :http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/

水町勇一郎労働法学会の若手トップ、東大教授

川渕香代子:派遣業の体質改善のキーマン、リクルートスタッフィング出身   

 

「なんでこの講演会がタダなの!」と驚愕する豪華ゲスト陣である。   

 

 

講演の内容には大満足。

昨今語られる「解雇規制の緩和」「限定正社員」といった政治トピックスについて、理解しきれていなかった事がこの講演のおかげですっきりした。

それでは、講演内容のまとめドン!!

 

 

非正規社員と解雇規制緩和論>

 

 

非正規雇用(有期雇用)に関する労働契約法改正

非正規雇用の問題点は、「臨時的な仕事でないにもかかわらず、有期雇用とされてしまっている」労働者が多くいること。

いわゆる「派遣切り」が問題になったときに、この矛盾が表出し、その問題に対応する形で、2012年に労働契約法が改正された。 

 

〇無期労働契約への5年転換ルール

〇雇止め法理の法定化

〇期間の定めの存在による不合理な労働条件の禁止

 

ここで重要なのは、無期労働契約への5年転換ルール。

"有期労働契約が5年を超えて反復継続した場合は、労働者の申込により無期労働契約(正社員)に転換する”

「臨時的な仕事といえる事情ではなくなったのだから、有期雇用契約とはしない」というまっとうな形に雇用のあり方を戻すことが改正趣旨である。

 

 

非正規雇用と解雇規制

解雇といっても種類がある。そこをごっちゃにしてしまうと、訳のわからないことになるので、初めに解雇分類と適用される法規制をはっきりさせておこう。

 

指名解雇(本人に事情がある場合の解雇)

→解雇規制濫用の法理

従来は民法1条3項:権利濫用の禁止を雇用契約に間接適用してきた。

近年の法改正で、労働契約法16条に法文化されている。

 

”解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はは、その権利を濫用したものとして無効とする。”

 

簡単に言うと、非常識な解雇は無効ということ。

有給休暇をとったらクビ/会社の飲み会を断ったらクビ/上司のセクハラ行為を訴えたらクビ。これら、全部無効。

 

こんな事例は中小企業の正社員では珍しいケースではない。さすがに大企業では、と言いたいところだが、非正規社員は契約更新の際に、上記のような背景で更新を止められるケースがある。しかし、そのような問題は表沙汰になりにくい。単に契約が終わったから、という理由で企業側のホンネは覆い隠される。

      

整理解雇(会社事情による解雇=会社業績不振によるリストラ)

→①に加え、整理解雇4要件の適用

整理解雇をするには、A.人員整理の必要性/B.解雇回避努力義務の履行/C.被解雇者選定の合理性/D.解雇手続きの妥当性という4つの要件を満たさねばならない、というもの。裁判での判断基準として積み上げられたものである。

 

ここでも、非正規社員は割を食っている。Bの解雇回避努力義務のなかには、役員報酬の削減・配置転換・出向の他に、非正規雇用社員の雇い止めも含まれうる。正社員をクビにする前には非正規社員をクビにしなければいけないと裁判所がお墨付きを与えているのである。

 

 

◆解雇規制緩和論の整理

昨今、日本経済を立て直すためには解雇規制を緩和するしかないというやたら勇ましい論議が政治の世界でなされているが、本当にそうなのか。

上記の解雇分類に従って考えていこう。 

 

指名解雇規制の緩和論

指名解雇は、解雇規制濫用の法理によって規制されている。

もう一度、解雇規制濫用法理を復習すると…

"客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である場合を除き、解雇無効"

 

これを緩和するとはどういうことか?

客観的でなくても、合理的でなくても、社会通念上相当でなくても解雇できるのか? さすがにそれは無茶苦茶であろう。ブラック企業を正当化するだけである。

 

しかも、指名解雇に限ると、日本は他のOECD諸国と比較して極端に解雇が厳しいとはいえないという調査もある。

欧州だと、解雇をする際の手続きが明確に決まっており、違法無効となった解雇では多額の損害賠償金(直近の給料2~3年分)が支払われる。ルール化されることによって、解雇の抑止力となっているのだ。

対する日本は、法律には曖昧な規定しかないので、裁判で勝つか負けるかが全てだ。訴訟リスクを恐れるまっとうな企業は解雇をためらうが、そうでない企業は「訴訟をしてくる従業員は殆どいない、損害賠償もたいしたことない」とタカをくくって不当解雇を行うといういびつな構図になっている。

 

また、解雇規制緩和論者の中でも、表だって解雇規制濫用の法理の緩和を言っている者は皆無である。しかし、「給与の割に成果を出せていない中高年を新陳代謝のために解雇せよ!」と言った文脈で、解雇規制を緩和せよ!とか言っている論者はいる。

 

これは指名解雇と整理解雇をごちゃまぜにしてしまった主張であろう。しかも、あとで述べるが、「働かない・成果を出せない」中高年の問題は、法律で解決できる問題ではなく、社内人事マネジメントの問題であり、処方箋判断を間違えている。

 

 

整理解雇規制の緩和論

 整理解雇4要件は欧州と比べると確かに厳格である。欧州の場合、業績下降の予測や、新技術の導入、合理化など日本に比べて企業都合が広めに認められている。

 

確かに、会社が潰れる間際かもしれないのに、出向・配転などできる限りの努力を尽くさなければいけない、という解雇回避努力義務は厳しすぎるのではという意見は十分妥当性を持っている。業界が縮小してできる仕事がなくなった、別事業に配転することも従業員の年齢上難しいというケースもあるだろう。

 

こういうケースで、「限定正社員」というアイデアが浮上してくる。職務や勤務地を雇用契約に明示限定して働く正社員のことだ。とはいっても、別に新しいアイデアでもなんでもなく、金融や外食産業でエリア正社員と言われていたものは勤務地限定型の正社員である。契約で勤務エリアを限定しているため、そのエリアから完全撤退した場合は、解雇できることになる。その意味では解雇規制がやや緩くなるといえよう。

 

だが、ここでも注意しなければいけないのは、限定正社員という一つの解決法は、法律問題ではなく、社内の人事マネジメントの問題であるということだ。限定正社員といっても法律にパッケージがあってそれを会社に当てはめるのではない。まず、会社と社員があって互いに納得できるような契約を交わすのが本旨である。

 

 

 ◆日本型雇用に対する処方箋

長々と日本の非正規問題・解雇問題について講演をもとにまとめてみたが、ではこれからの日本型雇用を修正するにはどのような処方箋が適切なのか。講演で上がってきた二つのキーワードにまとめてみたい。

 

①法規制による雇用ルールの明確化 ②人事マネジメントによる納得性の向上

 

① 法規制による雇用ルールの明確化

日本の雇用ルールは法制化されていない上に、いびつな構造だらけである

例えば、初めの方に挙げた常用有期雇用。臨時的な仕事でないにもかかわらず、有期雇用とされてしまっていた。昨年になってようやく5年ルールができ、いびつな構造は少しだけ本来あるべき姿に戻ったといえるだろう。

日本型雇用システムが揺らぎ出して20年弱。ゆっくりとではあるが、いびつな構造は法制化という形で修正されてきているといえるだろう。今後も法律によって雇用ルールを明確にすることで、違法な雇用を少なくしていく必要がある。

 

②人事マネジメントによる納得性の向上

しかしながら、法律だけでは雇用システムの修正は不可能である。なぜなら法律は一律規制であるために、明白な違法行為しか取り締まることはできない。仮にどれだけ解雇ルールを厳格にしようと、グレーゾーンは出てくるだろう。

逆に解雇規制を緩和しても、企業内での実態が変わらなければ、規制緩和論者の思い通りに物事は進まないだろう。

 

そこで登場するのが、企業内の人事マネジメントである。人事マネジメントは法律のように「正しさ」ではなく「納得性」をもとに執行される。

大切なのは、「正しさ」ではなく「納得性」だ。

 

例えば、限定正社員の導入。給与は下がるが、転勤はない。社員が納得していきいきと働いてくれるのであれば、給与が多少下がっても問題はない。

そして、限定正社員のあり方は業種や企業規模によって全く異なってくるだろう。外食産業と製造業では全く違うし、1エリアしかない販売会社と、海外展開している会社では、限定正社員のバリエーションは異なってくる。

現在はエリア限定しか目立っていないが、もっと職務限定や時間限定社員が増えたっていい。

 

ポイントは、企業側と社員との納得性。納得性の根源は評価制度。職務限定や時間限定社員が増えてきたときには、評価をどのように行うかということが人事にとっての課題となるだろう。

 

①法規制による雇用ルールの明確化 ②人事マネジメントによる納得性の向上

このふたつは課題解決のための両輪であって、どちらも欠けてはいけない。従業員には納得してもらっていると経営者が言っていたとしても、それが法律違反になっているのでは話にならない。また、その逆も然りである。

 

 

 

長文エントリを書いているうちに、人事にはやるべき仕事の余地が相当大きいのだと思い直した次第。

 

 

 !!ばっ!!<おしまいの合図>!!ばっ!!