公務員:内定取消しの落とし穴(後編)
公務員受験生は内定取り消しになっても、法的に救済される余地はない。
驚くべき判例はこちら ↓ ↓
東京都の職員に内定した学生が職員研修制度に反対する集会に参加し、逮捕されたことを理由に、内定取り消しを食らったという…なかなかロックな事件要旨ではある。
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この判例の検討に入る前に、民間企業での内定および内定取り消しの法的扱いについて押さえておこう。
(1)内定の法的性質
内定=(解約権留保付き)労働契約の成立
会社の採用内定の通知と応募者の承諾により、労働契約が成立。
内定時に成立する労働契約は契約の始期までの間に誓約書記載の採用内定取消事由(例:大学を卒業できない、重大犯罪を犯すなど)が発生した場合には、使用者が解約することができるという性質をもつ。
(2)内定取り消しの法的性質
内定取り消しには法的制約がある。(解雇よりやや緩い程度の制約)
適法な内定取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として認められるものに限られる。
まとめると、民間企業では、内定=契約成立とされ、内定取り消しには法的制約が課されている。であるが故に、リーマンショック後の内定取り消しは大ニュースになり批判を浴びたのである。
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それに対し、公務員の「内定」とはどのような意味を持っているのか?
先ほどの判例に戻ろう。
(1)「公務員における」内定の法的性質
内定の通知=採用発令手続を支障なく行う準備としての単なる事実上の行為
つまり、内定を出しただけでは、その受験生を職員として採用しなければいけない法的義務はこれっぽっちもない。
う…うそだろ…
ここでポイントとなるのが、「任用」という行政法用語。
任用=任命権者が特定の人を特定の職につけること。任用によって、 行政と公務員の関係が始まるとされ、判例では内定の法的意義はないものとされたことに注目しよう。
公務員のワークルールで「任用」を重要視し、それ以前における内定者の法的安定性を無視していることについて、私にはどうしても納得できない。
(2)内定取り消し時での法的救済
内定取消し自体は、採用内定を受けた者の法律上の地位ないし権利関係に影響を及ぼすものではない。前述のように、行政と公務員の関係が始まるのは「任用」時点。
したがって内定取消しは行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(行政行為)」に該当せず、採用内定者は、その取消しを訴求することはできない。
*損害賠償請求は可能
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お門違いな批判かもしれないが、行政側から一方的に内定を取消すことができ、しかも裁判所に異議立てもできない、この現状は絶対におかしいと思う。
行政の権力作用を押さえるための法律として、行政法は位置づけられているはずなのに、重要な場面の一つである採用という行為において、行政の恣意を許す法律の穴があるのは由々しき事態だと私は考える。
確かに最高裁の判例は、内定者が労働組合の活動に積極的に参加し、将来の職場に異議申し立てしたら内定を取り消しされたという、相当イレギュラーなケースではある。
ただ、判例ではその行為の是非は判断されておらず、法形式論として上述のような結論に至っていることに注目せねばならない。
落ちこぼれ法学士が真面目に考察した結果、公務員は内定取り消しにあっても、損害賠償請求できる以外は泣き寝入りするしかないということが分かった。
公務員の研修制度に大いに異議があっても、運動なんかは起こさず、大人しくしておこうとおもう。(棒読み)
!!ばっ!!<おしまいの合図>!!ばっ!!