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yamachan blog  (社会派うどん人の日常)

コシのつよいうどんのような、歯ごたえのある記事をお届けします。

STAP細胞騒動についての所感〜科学的思考と法律的思考〜

時事ツッコミ

世紀の発見と取沙汰されたSTAP細胞

本日4/16には、笹井副センター長の会見があったようで、大々的に報道がなされている。

 

実験ノート見ていない…小保方氏を指導の笹井氏(読売新聞)

小保方氏「笹井さんにご迷惑おかけして申し訳ない」(朝日新聞)

 

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残念ながら、私自身は卒論すら提出義務のない文系学部を卒業したため、専門的なことは何一つ言えない。しかし、過去に起きた事象と比べてみることは門外漢にもできる。

 

 

<「論文捏造」にみる過去事例>

そこで遅ればせながら、ある一冊の本を読んでみた。

 

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なんとまあ、ひねりのないタイトルである。

内容のあらすじは以下の通り(Amazon 内容紹介)

科学の殿堂・ベル研究所の、若きカリスマ、ヘンドリック・シェーン。彼は超電導の分野でノーベル賞に最も近いといわれた。しかし2002年、論文捏造が発覚。『サイエンス』『ネイチャー』等の科学誌をはじめ、なぜ彼の不正に気がつかなかったのか? 欧米での現地取材、当事者のスクープ証言等によって、現代の科学界の構造に迫る。

 

この本のテーマである「シェーン事件」。これは理系、特に物理工学を学んだ方にとっては、科学倫理等の授業でほぼ必ず学ぶもののようである。(私が大学の先輩とSTAP細胞について話していた際には、真っ先にこの事件の名前が出てきた。)

 

 

シェーン事件と今回のSTAP細胞騒動は奇妙なほど似通っている。

名門研究機関に若くして抜擢 (双方ともに30歳前後

・ 当時最もホットといえる分野での発見(超伝導/生命科学

              〜からの〜

・論文の根拠となる重大なデータについて、過去自らが書いた論文データを加工またはそのまま取替えたという不正

・論文不正を追及された際に、提出したサンプルや実験ノートが不十分

・サンプルを一部捨ててしまったという弁明

・大学時代から論文不正を行っていたという事実

 

但し、似通っているからといって、実験さえ行われていなかったシェーン事件のように、STAP細胞そのものが存在しないとはまだ言い切れない点には留意しておきたい。

 

 

<科学的思考と法律的思考>

本書を読んでハッとしたのが、P.116にある、シェーンに対する疑惑を抱いていた科学者が語った一説である。

嘘だ、というためには、まず100パーセントのデータを持って嘘だという必要がある。それには時間がかかるんです。そういうことを確かめるには時間がかかるんです。(中略)数学なら、一つの例外さえ提示できれば、その証明が正しくない、という証拠になります。ところが、実験物理の世界では、嘘であるということを証明するのはきわめて難しいんです。実験を100回やりました、100回ともすべてうまくいかなかった、だからぜんぶ嘘でしたとは、決して言えません。

 

科学における現象が「ない」ことを証明することは、それが「ある」ことを証明するよりもほうが圧倒的に難しいということだ。

 

それに対して、私が学んだ法律学的な思考の基本は「利益衡量」である。ある紛争において、当事者Aの利益と当事者Bの利益があり、両方のどちらを尊重するのかを、法律のフレームワークで見定める。ここでの判断は科学ほどの厳密さはないと言えよう。

 

 

STAP細胞騒動を、科学的思考と法律的思考で眺める>

ここで今回のSTAP細胞騒動に話を戻そう。

小保方氏は「論文捏造」の疑惑が掛けられた後に、「論文は適切か否か…①」というフィールドから、「STAP細胞は存在するのか否か…②」というフィールドに意図的に場所を移そうとしたかのように思われる。

 

①に関しては、擁護のしようもなく彼女は「クロ」である。

しかし、②については、「ない」こと=「クロであること」を証明するには科学的思考の厳密さが求められる。あと少なくとも数ヶ月、長くて1年以上は彼女について「クロ」と断定することはできない。判断を留保するのが科学的思考の帰結である。

 

そして、仮定の話だが、理研が今回の騒動を原因として彼女を解雇し、彼女が解雇無効を訴えると想像してみよう。「解雇は無効か否か」…③

ここは科学ではなく、法律的思考の出番である。

解雇理由が就業規則に記されているか、また解雇が合理的な理由であるか等が判断基準となる。彼女の論文が捏造であったとして、それを理由に解雇されたとしても、理論上は解雇無効という判決が出ることもあり得るだろう。それが科学コミュニティにとって最悪の結果だったとしても。

 

 

ある意味、小保方陣営はしたたかであると言えるだろう。

自らが敗北決定的である「論文は適切か否か…①」ではなく、「STAP細胞は存在するのか否か…②」にフィールドを移すよう試みている。そして、最悪の場合(解雇)に備えているだろうが、そこは科学ほどの厳密さが求められない民事訴訟の世界。撤退戦も勝ち目がないとは言い切れない。本当にしたたかである。

 

 

そこに科学者としての矜持があるようにはとても思えないが……