地域手当の謎を追え
お国の役所勤めとなってから3ヶ月余りが経過した。
その間に給与明細を何回かもらったわけだが、どうにも解せない明細費目がある。
それは
「地域手当」
地域手当そのものは国家公務員に限った話ではなく、銀行・証券など全国転勤可能性がある民間企業であれば、賃金制度に組み込まれている例は少なくないだろう。
【趣旨】地域の民間賃金水準を適切に反映するため、物価等も踏まえつつ、主に民間賃金の高い地域に勤務する職員に支給するもの
【地域手当支給月額】=(俸給+俸給の特別調整額+専門スタッフ職調整手当+扶養手当)の月額 × 「支給割合」
私たちは上述計算式の「支給割合」に目線を集中することになる。
支給割合の例は以下の通り。*1
級地 | 主な支給地域 | 支給割合 |
1級地 | 東京都特別区 | 18/100 |
2級地 | 大阪市 | 15/100 |
3級地 | さいたま市,横浜市,名古屋市 | 12/100 |
4級地 | 千葉市,京都市,神戸市,広島市,福岡市 | 10/100 |
5級地 | 仙台市,宇都宮市,甲府市,静岡市,津市 | 6/100 |
6級地 | 札幌市,前橋市,富山市,金沢市,福井市,長野市,岐阜市,和歌山市,岡山市,高松市 | 3/100 |
同じ都道府県内であっても地域手当に10%近くの差がつくことがあることがわかる。同一の都道府県であっても、都市部とそれ以外では物価が異なるため、生活給的な思想をもとに手当に差をつけることに対しては大きな異議はない。
ただその支給割合については、物申したい。例えば国家公務員が官舎に住んでいる場合、物価にたいした違いが出るとは到底思えないのだ。 実際のところ若年層公務員の多くは官舎に住んでいるが、その層で月額10%弱の差がつくというのは、どうにもしっくりこない。
◯地域手当と物価指数の比較
総務省統計局のデータ*2によると、平成25年都道府県庁別平均消費者物価指数(平均=100)を都道府県庁別に見ると、最も高いのが横浜市の106.0であるのに対して、最も低いのが宮崎市の97.1。横浜市は宮崎市より9.2%高い物価である。さらに、家賃を除いた指数で比較すると、横浜市は宮崎市より7.3%高いことになる。
この調査はあくまで都道府県庁所在地のみの比較となっているが、宮崎市勤務の場合、地域手当は0%となっているため、純粋な物価比較と照らし合わせると、地域手当の差(最大18%)は過大といえるだろう。
◯地域手当の趣旨とは
さきほど「純粋な物価比較である場合、地域手当の差は過大」と述べたが、この考え方には大きな間違いがある。ここでもういちど、地域手当の趣旨に立ち返ってみよう。
(趣旨)地域の民間賃金水準を適切に反映するため、物価等も踏まえつつ、主に民間賃金の高い地域に勤務する職員に支給するもの
物価等も踏まえつつ、「地域の民間賃金水準を適切に反映するため」
地域物価にあわせるという生活給的な考え方は従、主たる目的は地域の民間水準を適切に反映するためらしい。
たしかに国家公務員の給与は民間の賃金水準を反映した人事院勧告を踏まえたプロセスを経て決定されている。ただ、ここでいう民間賃金水準は全国平均である。東京と片田舎では民間賃金水準が異なるのは当然であろう。そこで、全国の平均ではなく、国家公務員が実際に勤務する場所レベルにまでブレイクダウンして、民間賃金水準との衡平を図ること、これが地域手当の趣旨であるようだ。
◯地域手当は公平(衡平)か?
地域手当の趣旨は理解できたわけだが、ここでさらに大きな疑問が湧いてくる。地域手当制度によって失われる公平性はないのか? 果たして勤務地レベルで民間賃金水準との衡平を考慮する必要はあるのだろうか?
この問題に対しては、国家公務員の転勤様態によって考え方が異なってくるのだろうと思う。
① 全国転勤前提の国家公務員
いわゆるキャリア組の官僚がその代表。全国転勤を前提とした場合、働く側にとってみれば、勤務地における民間企業賃金水準で給与水準が変わるのは、不合理な度合いが大きいだろう。このような職種の場合、都会から田舎に異動すること、またその逆の異動は頻繁にありうる。職務内容は変わらないのに、その度に物価水準差を大きく超える範囲で給与が変動するのは、筋が通らないだろう。実際は都会から田舎に異動する際には、数年間地域手当分の差額の一部を補填する仕組みがあるようだが、そのことが逆に制度を複雑化することに繋がってしまっている。
② 原則的には全国転勤なしの国家公務員
いわゆる地方ブロック採用のノンキャリア。原則的には東北ブロック・四国ブロック等、全国をいくつかのブロックに分けられた範囲内で採用および異動をする。国家公務員といえど全国どこでも異動するというわけではなく、地域ブロックに根付いたかたちで働くわけだ。
したがって上述の全国転勤する公務員とは異なり、地域手当が大きく変動するような異動はそう多くはないため、地域手当に起因する不公平感は比較的小さいだろう。
さらに、そもそも勤務地レベルで民間賃金水準との衡平を考慮する必要はあるのだろうか? 個人的にはそこまで官民格差を厳密に考えるのはあまり意味がないと思うのだが、現実には地域レベルでの官民給与格差が問題視され、公務員バッシングの火種になっているという事象そのものは理解している。民間企業の給与水準の低い地方であればあるほど、官民格差は大きい。また、逆に都市部の場合は、官より民の方が給与水準が高いこともあり得るだろう。地域手当は基本の俸給に付加する形であるため、どちらかと言えば後者(都市部での官<民格差)を衡平化するための制度であるといえるかもしれない。
しかし、官民格差を意識しすぎるあまり、同じ職種での公平(衡平)感を見失ってはいないだろうか。
仮に私が制度設計をするのであれば、勤務地における民間の賃金水準ではなく、純粋な物価差を基準にする。なぜならそのほうが内部職員の公平感・納得感が高くなるからである。ただ、純粋な物価差を基準にすることで官民格差が大ききなるかどうかは制度設計次第で、どこまでその格差を受忍するかという別の問題となるだろう。
また、場合によっては、公務員の転勤種別(全国転勤あり/なし)で給与形態を変えるということも選択肢のひとつであろう。*3
今日は午前中は有給休暇を取得し、ごたごた小難しいことを考えたが、まずは地道に働かなくっちゃね。 では仕事に行ってきます(´・ω・`)