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yamachan blog  (社会派うどん人の日常)

コシのつよいうどんのような、歯ごたえのある記事をお届けします。

労働基準行政の敗北なのか?「国際自動車」タクシー訴訟から考える

労働基準行政

労基署での日常の業務をこなすことで精一杯になっていないか?と日々自省する私にとって、昨日夜に報じられたNHKニュースは強烈なものだった。

 

 

→リンク先では3分程度のニュース動画も見ることができる。

<冒頭抜粋>

 東京にあるタクシー会社が、残業をした運転手の賃金を計算する際、歩合給から残業代と同じ額を差し引いていることについて、東京地方裁判所は「労働基準法の趣旨に反する」と判断して、会社に1450万円あまりを運転手へ支払うよう命じる判決を言い渡しました。


この裁判は、東京・大田区のタクシー会社「国際自動車」の運転手など14人が起こしたものです。
この会社の運転手の賃金の計算方法では、残業代や深夜手当が生じた場合、その同じ額を歩合給から差し引くことになっています。
これについて運転手たちは「残業代が支払われていないのと同じで不当だ」と主張して、差し引いた額を支払うよう求めていました。
28日の判決で、東京地方裁判所の佐々木宗啓裁判長は「この計算方法では残業した運転手もしていない運転手も賃金がまったく同じになる場合がある。時間外労働などに対して割り増しされた賃金で補償するという、労働基準法の趣旨に反する」と判断して、会社側に1450万円あまりの支払いを命じました。

 

 

この冒頭部分を読んだとき、自分はこう思った。

 

裁判であれば、「不当な賃金形態である」と判決が下されるのは妥当だろう。

問題は、裁判になる前に、自分が当該事業場に臨検をした担当官だったと仮定して、「違法な賃金形態である」という確信を持って是正勧告書に違反条文を書くことができるのだろうか?

半年前の自分であれば、たいした躊躇もなく「労働基準法第37条第1項および第2項違反*1」という文字を手書き*2書いたかもしれない。しかし現在の自分であれば、限りなく黒に近いグレーだと思いつつ、その場では違反を指摘できないかもしれない。

自分は丸くなってしまったのか? 

 

言い訳に聞こえるかもしれないが、監督官の論理はこうである。

監督官は特別司法警察官。刑罰法規を他者に適用するという職務。よって厳格に法律を適用しなければならない。

昨年の4月から耳が腫れるほど、このような趣旨の言葉を聞いてきた。法律の狭間にあるような事例に対して、法規の適用は抑制的でなければならない。警察行政で例を挙げると「危険ドラッグ」。刑罰法規に載っていない行為に対しては、直接的に刑罰法規をもって取り締まることはできない。解釈が分かれるような事柄に対しては、慎重にことに当たらなければならない。

 

 

だが、結果的にはグレーゾーンの行為を放置してしまうことになっていないか?労働基準行政の敗北とは言えないか? 

 

しかも、ニュース記事の文末にある言葉が重い。

判決について国際自動車は「これまで労働基準監督署から歩合給の計算方法について問題だと指摘されたことは一切ない。判決で一部無効だとされたのは納得できないので控訴した」とするコメントを出しました。

 

実は過去の判例の中には、今回の会社側反論に対する回答となり得るものがある。労基署が行政指導をしなかったからといって、違法ではないとはいえないという判断がそこではなされている。

「論旨は、本件行為そのものの違法性や、違法性の認識を云々して犯罪の不成立を主張するものであるが、所論のように所轄労働基準監督署が、被告人の本件行為を看過放任し、これを違法行為として早期に指摘し是正の勧告をしなかったからと言って、それを正当行為として承認したものとは解せられないばかりではなく、本件所為は労働基準監督官の承認や取扱例の如何によって違法性の阻却を招来する事項ではない。*3

 

 

だから労働基準行政としては一安心、ということにはならない。

残念ながら行政の行動が変わるのは、裁判を通じて問題が明らかになった後だということが多い。まるでモグラ叩きゲームだ。

 

モグラ叩きゲームから脱却するキーとなる主体は、真の意味で「協調性のある」仕事人であると自分は考える。一人だけで突っ走らず、周りを説得しながら、グレーゾーンに斬り込んでいく。さらに、それを周りに広げていく。それが、本当の意味の協調性だろう。そのような働きができるようになりたいと心から思いつつ、私は日々の仕事をこなしていく。慣れっこにならないように。

 

 

*1:割増賃金の支払い義務

*2:是正勧告は基本手書き。習字を習っていてよかった。ありがとうオカン。

*3:昭和33年6月9日、広島高裁判決、三洋石炭事件