「労働法教育」と「キャリア教育」の狭間
GW最後の土日を使って東京まで出掛け、社会派っぽいイベントをハシゴしてきました。「社会派うどん人」活動の再開です。
① 5/7(土)@下北沢B&B
本田由紀×今野晴貴「子どもと学校のゆがんだ関係」『君たちはどう働くか』刊行記念
②5/8(日)@阿佐ヶ谷ロフト
今回は①のイベントで感じたことをお伝えします。
登壇者の今野さんはNPO法人POSSEという団体で若者向けの労働相談、研究提言等を行っている方です。文春新書『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』をはじめとする一連の著作で労働問題に斬り込んでいます。仕事柄、彼の著作はほとんど購入しており、過去にブログで書評も書いています。
もうひとりの登壇者は本田由紀教授。教育社会学の第一人者、私の母校(高校)の大先輩ということで勝手に親近感を持っています。
「若手社会人や大学生に向けてブラック企業に絡めとられないための方策を説いてきた著者が、中学生向けに出した本」という担当編集者の方の紹介でイベントは始まりました。
◯私と「労働法教育」
労働行政では、ここ数年前から大学生・高校生を対象とした労働法教育を進めようとしています。私も昨年、高校に赴いて、労働法についての講習会として1時間ほど話をしました。
「労働法は法律を学んだだけでは意味がない、使用者とコミニュケーションを取った上で権利行使をしなければ絵に描いた餅だ。」という思想を根底に説明を進めました。(今野さんの著作の受け売りに近いですが、私もその通りだと思っています。)
この時にやり取りをした高校の先生は、「労基署さんの講習会の後に、現代社会の科目で労働法やキャリア教育をやるカリキュラムになっているのです。」と説明していました。その話を聞いて私は、「自分の高校は進路指導すらほとんどなかったのに、キャリア教育かあ、なんかよく分からんけれどもいまの時代は進んでいるなあ。」と思い感心していました。
しかし、今回の本田先生のキャリア教育に対する批判を聞き、私は認識を一部改めることになります。
◯「キャリア教育」公式見解
キャリア教育を管轄しているのは文部科学省です。
今、子どもたちには、将来、社会的・職業的に自立し、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現するための力が求められています。この視点に立って日々の教育活動を展開することこそが、キャリア教育の実践の姿です。
学校の特色や地域の実情を踏まえつつ、子どもたちの発達の段階にふさわしいキャリア教育をそれぞれの学校で推進・充実させましょう。 *1
また、キャリア教育が必要とされる背景について、文科省の公式見解は以下の図のとおりです。
この図の上部の文言は、若者に対する目線としてやや危険なものを孕んでいるのではないでしょうか。「「ニート」「ゆとり」といった言葉で若者を括り、最近の若者はなっとらん、矯正しなければならない!」といった風潮と同じものを感じてしまいます。
◯「キャリア教育」に対する批判
今回のイベントでは、本田先生が、「甘い毒」という表現で現行のキャリア教育を批判していました。
働くことは素晴らしい、適職を見つけよう、自己実現万歳…というのが彼女のいう「甘い」という部分。もちろん働くことで誰かの役に立ち、自分が成長するのは素晴らしいことです。
しかし、そのキャリア教育には「毒」が仕込まれていると彼女は言います。
現行のキャリア教育は、会社に対する「適応」ばかり求めている。このまま働き続ければ身体を壊すような労働環境であったとしても、まずは耐えることを勧められる。そもそも現行のキャリア教育には、入社した企業の労働環境が劣悪な場合を全く想定していない。キャリア教育は「甘い毒」。会社に適応しようとする「強制された自発性」を発揮した結果ブラック企業の餌食になる若者を増やしているのではないかと彼女は問題提起をします。
◯「労働法教育」と「キャリア教育」の狭間
そして、彼女は著者の今野さんにも厳しい問いを投げかけます。
「労働法が大事なことは十分承知している。現行の「キャリア教育」では働くことは素晴らしいと主張しているが、あなたの著書で「キャリア教育」に対抗する術は何か書かれてあったか?」
この問いに対して、今野さんはキャリア教育の専門家ではないこともあり、答えに窮してしまいました。
今野「キャリア教育でブラック企業に適応するくらいなら、キャリアについて深く考えない方がよいかもしれない。」
本田「でも、キャリアについて考えなくていいと言えるの?普通の人は働かないと生活していけないよ。」
今野「…」
本田「キャリア教育に対抗する明るいメッセージが欲しいんだけれどもねえ。」
今野さんのこの著作のタイトルが「君たちはどう働くか」であるにもかかわらず、ブラック企業対策ハウツー本の域を脱していないという強烈な批判であったように私は感じました。
そして、その批判は私にも同じように向けられるでしょう。
高校生に対して労働法の法律を教えればそれでよいと思っているわけではないと思い、自分なりに工夫して説明をしたものの、その学校でこの後行われるキャリア教育の内容について何も頓着していませんでした。
これから労働法教育の一アクターとして話す機会も増えるでしょう。次の機会にはその学校でのキャリア教育との接続まで踏み込みながら話ができるよう改善できればと思っています。