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yamachan blog  (社会派うどん人の日常)

コシのつよいうどんのような、歯ごたえのある記事をお届けします。

「いいひと。(高橋しん)」にみる20年前の人事的課題(その4)〜「ReSET」という名の「リストラ」〜

労働・人事全般

スローペースで続けている、「いいひと×20年前の人事雇用の課題」 シリーズ

今回のテーマは

 

 “中高年リストラ”

 

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◇リストラ編のあらすじ

バブル崩壊後の不況の煽りを受け、経営危機に陥ったライテックス社。人件費削減を主目的とする中高年社員を対象としたリストラが計画されていた。ゆーじはそんな中、実行部隊の参謀役(人事企画課長待遇)になってしまう。

普段から細い目をさらに細めて、彼は「自分は悪者になる。」とまで宣言する。その反面、リストラでみんなが幸せになる可能性はないものか、彼は逡巡する。

 

まず彼は人事部とは別組織として、リストラ案策定計画を行うプロジェクトチームを立ち上げる。そこで彼がチーム員候補として招集したのは他ならぬリストラの対象社員。もちろん対象社員にはそんなことは知らされていない。

「自分には責任を取りきれません!だから皆さんで一緒に責任取ってください!」「これから皆さんがリストラするのは…皆さん自身です!(byゆーじ)」

 

 

 

◇  社内人事制度「Reset」

様々な紆余曲折を経て、リストラされる側の社員たちの手によってまとめられたリストラ案は、役員会に提示されることとなる。その案は「ReSET」と名付けられた。

 

「ReSET=Resructuring for Self Effective Turning-point」

 

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ご承知のように、リストラの本義は首切りや人減らしではない。

構造を改革すること。特に、企業が不採算部門を切り捨て、将来有望な部門へ進出するなど、事業内容を変えること。企業再構築。リストラ。

デジタル大辞泉) 

 

"事業構造改革" と "会社員個人の人生の再構成" を同時に行うことが、この制度のコンセプトである。前者はリストラの本義であるが、後者の "会社員個人の人生の再構成" とは何か?   それは「自分で」自分の仕事を選ぶことだと、ゆーじは語る。

 

日本では、いわゆる正社員の場合は、職務を限定されていない雇用であることが殆どである。ジョブローテーションで幅広い職種を経験することはあるが、その選択には本人の裁量が入る余地は小さい。そして中高年、特にこのストーリーでリストラ候補となった部次長クラスとなると、善かれ悪しかれ、これまでの仕事が個人に貼付き、企業内で自己の裁量で「やりたい仕事」を決定することがより難しくなるのは事実であろう。

 

 

では、ゆーじたちが考えた「ReSET」の中身について見ていこう。

 

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ReSETとは、社内人事制度の改革として位置づけられるだろう。

(対象者)

 ・勤続年数/役職/実績/資格等を考慮し、一定の条件を満たしたと見做される社員

 ・早期退職/出向を勧告された社員 

 (効果)

  ・自分が一番やりたいと思える仕事を自己決定する

(雇用条件)

 ・一定期間の有期雇用(再任用/昇給/昇格あり)

 ・給与は新入社員と同額

 ・扶養家族手当等最低限の補助保障、退職金の前払い支給

 

 

◇「Reset」について真面目な考察

 

・類似制度との比較

 —社内FA制度

部署・部門に対して、社員が自ら売り込む求職型の異動・配置システム。*1自分が一番やりたいと思える仕事を自己決定するという効果はReSETと同一である。ただ、リストラ候補とされた人にFA資格を与えるというのは聞いたこともない。

 

 —雇用延長後の再雇用

大企業の多くは定年を60歳に設定し、定年到達後に嘱託などの名称で定年した社員を再雇用している。定年後再雇用の際には、賃金は定年まで年功的に上昇していたとしても、定年を機に年齢と給与のリンクが断ち切れ、大幅カットされた賃金で雇用関係を結ぶことが多い。ReSETのように新入社員の給与で雇用されるというほど極端ではないが、制度としては似たものを感じる。また、時期的なことを考えると、ReSET制度は定年再雇用制度の前倒しであるとも言えるだろう。

  

 

・新入社員と同額の給与

新入社員と同額というのは極端な話だと思われるかもしれないが、「職務給」の世界からストーリーをのぞいてみると、不合理とは言い切れない。職務給制度下においては、職務経験のない仕事に異動すれば、当然給与は下がる。

対する日本大企業の場合だと、「職能給」制度であるため、これまでの職務を通して培った能力を給与決定上の評価基準とするため、未経験の職務に移ったとしても給与は下がらない。例えば、営業部長から人事部長に異動しても、職務変更を理由として給与が下がることはない。

つまり、ReSETは一定の条件を満たしたものだけ、職務給に移行される制度であるといえるかもしれない。

 

 

・生活保障としての賃金

先ほど「職務給」制度下であれば、未経験の仕事に対して新入社員と同額の賃金になっても不合理とは言い切れないといったが、社員の生活保障についても考えねばならない。賃金は、成果に対する結果であると同時に、生活の糧でもあるからだ。

ReSETでは、扶養家族手当等の最低限の保障および退職金の前払い支給を生活保障として充てている。ただ、これだけでは生活保障としては足りないのではないか。定年までは退職金の前払いでなんとか食いつないでいけるかもしれないが、定年後の年金生活は大丈夫なのだろうか。*2

 

通常、早期自主退職の際には、退職金を割増して支払うのが通例である。そうしないと退職者が集まらないのが理由だが、これは退職者に対する生活保障という側面もある。

多くの企業が行っている早期自主退職の実態と比較し、ReSETを選択する者には+αの賃金保障は一切ないというのは、ややバランスを欠いているように私には思える。

 

 

・ReSET制度についての所感まとめ

ReSET自体は正直なところ、なかなか面白い制度だと感じた。ReSET後は新入社員と同額の給与というあたりは漫画なので極端な制度設計ではあるが、ReSET後に自発的に職務給システムに切替えられると制度だと解釈すると、そこまで変な話でもない。

 

ただ、ReSET制度のポイントは、今後も発生する早期退職や出向の勧告というターニングポイント以前に、会社と自らの仕事について考えて自己決定する機会を得たということにあるだろう。

会社人は会社にいる間に、その会社にいることを当たり前だと感じ、その仕事についていることも当たり前に感じてしまう。会社や仕事に対して慣れっこになってしまう。そして早期退職や出向の勧告といった一大事になってはたと気づく。 "なんでこの仕事をしているんだっけ?!" これは会社にとっても個人にとっても不幸なことである。

だが、ReSETという制度があることで、否が応でも"会社と自分と仕事の結びつき"が意識させられる。制度を使うか使わないかは個人の自由であるが、働き方の選択肢が増やされ、個人の意識が変わる、そのことに制度の意義は見いだされるであろう。

 

 

 

◇シリーズ総括

今回で、「いいひと。×人事的課題」のシリーズはひとまず終了する。女性総合職/派遣社員/中高年リストラという3テーマについて、自分なりに、社会状況や人事制度を参照しながら、漫画を読み解くことができたと思う。

 

ただ、この漫画の本質は、はたらく人々の「想い」にこそある。今回のリストラ編にしても、リストラをする側の想い、される側の想い、そして社員の家族の想い。様々な人の想いが幾層にも重なってストーリーが展開している。ブログのテーマ上、その「想い」の部分を全て捨て去った文章になってしまったが、私がこの漫画が好きな理由は、他ならぬその想いの部分である。

残念ながら、この漫画に描かれた「働くことについての想い」に関しては、今の自分には書けそうにもない。いつの日か、働く自分の心にも手を当てながら、文章にまとめることができればよいと思っている。

 

 

*1:

「社内公募制度」「FA制度」で適材適所の人材管理を実現する(日本の人事部)

*2:ただ、年金不安が表沙汰になったのは2000年代からの話であるため、コミックス連載時には、そう問題にならなかった可能性がある。ReSET対象者は年金不安からギリギリ生き延びた世代である。